蘭学者になる夢を諦め、奉行所同心となった如月右京。二十六歳という、見習いとしてはいささか遅い始まりであったが、持ち前の明晰な頭脳と長崎仕込みの西洋剣術で、次々と手柄を立てていく。 文政六年、師走の江戸──。寒風吹きすさぶなか、柳原土手で夜鷹が殺されるという事件が起こる。下手人はおそらく侍。相手を一刀のもとに斬り捨てる、恐るべき腕前の辻斬りであった。 遅々として進まない夜鷹殺しの探索、そして十年ぶりに現れた大盗賊・蝮の庄兵衛の暗躍……。江戸を駆け回る右京の労苦をよそに、右京の小者を務める美少女剣士・お美祢は、生まれてはじめての恋を覚える。その裏に秘められた、哀しみの意味さえ知らずに……。