定町廻り同心・和籐田三次郎は、業平橋で起きた殺しの現場で、ある奇妙な男と出会う。真っ白な狩衣に真紅の袴、立て烏帽子をかぶり、あたかも平安絵巻から抜け出したような装いである。言葉をかわした瞬間、鋭い洞察と観察力で、三次郎の妻の出産を見抜いたその男は、従三位権中納言、飛鳥業平―水戸家に逗留するやんごとなき京のお公家さまであった。三次郎のとまどいと困惑をよそに、探索仕事に興味をおぼえた業平は、八丁堀同心よろしく難事件の探索に乗り出すのだが…。武家や世間の常識にとらわれぬ、まさに江戸時代の名探偵が、事件に隠された謎を解き明かしていく。著者渾身の新シリーズ。